庭園の管理

日記です

3000円無駄遣い

占い館『にいむら』に入るやいなや、水晶が乗ったテーブルの向こう側から「いらっしゃい、はいこれチャクラね」と袋に入った飴のようなものを手渡された。水晶の横にあるネームプレートには琢磨の母と書かれてある。
受け取ったものを確認すると、どう見てもどんぐりガム。何だこの人、アズ スーン アズどんぐりガム、どういう戦略なんだ…と不安な気持ちでコートを脱いでいると「ふふふ、今あなた私のネームプレート見て子供がいる?と思ったでしょ。琢磨の母っていうのは源氏名みたいなもので子供なんていないわよ。もう今年で33歳になるんだけどね。合コン合コンでこの歳ですわ。コンチクショー」と言ってきたのでさらに不安になった。どんぐりガムがチャクラのはずないし、色々と聞いてもないことを話してくれるのだから、まずは和ませようとしてくれてるのだなと思い悪い気はしなかったがこの人の占いは当たらなそうだなと感じた。やっぱり帰ろうかと考えたが好奇心の方が上回ったため前払いで3000円を手渡した。



占いが始まって10分くらい経つが、琢磨の母は、なんというか、防戦一方だった。あなた体格がいいわねえ力仕事? いえ、厨房で野菜を切ったりしてます。そう…あなたモテそうだけど、彼女はいらないって感じがするわねえ?いえ、付き合って6年になる彼女がいて来週あちらの親御さんと食事をする予定です。あなた最近………ケーキとか食べたいでしょ?すみません、卵アレルギーなんです。嘘などつかずに答えているのだが否定ばかりなのが癪だったのか琢磨の母が普通に舌打ちとかしてきた。3000円返してくれ。
もう帰ろうと決心し、ダイレクトアタックと思いながら席を立った。「いま僕が何を考えてるかわかりますか?これ当てることができたらすごいですよ」とコートに袖を通しながら言った「難しいと思いますけど」
「3000円返してくれ。ダイレクトアタック でしょ」
え…?なんで… 
「別にそんな驚くことかしら、占い師なんだから心くらい読めるわよ」
「でも、さっきまで狙って外し狙って外しだったじゃないですか?逆のび太だったじゃないですか?どうして…?」
「ごめんなさいね。あなたって人を信用しなさそうに見えたから、最初からズバズバ当ててしまうと気を悪くしかねないと思ったのよ。あえて下手な占い師を演じてみたの。逆のび太って悪口は初めてだわ。本当は逆のび太って褒め言葉だと思うけど。さておき、ここからは反撃よ。1ターン目からやり直しするわね。いらっしゃい、はいこれチャクラね」と、飴玉のようなものを手渡された。



これ一回見たし何がしたいんだ、と思ってるにもかかわらず飴玉のようなものを受け取り袖を通していたコートをまた脱いでしまった。
水晶の横にあるネームプレートには琢磨の母と書かれてある。受け取ったものを確認すると、どう見てもどんぐりガム。なんだこいつ、さっきと同じじゃねえか。なんなんだよ琢磨の母。琢磨の母って。新宿の母とかは聞いたことあるけど琢磨の母って。でもよく見るとこの人の手、指先ごついな。えっ今気づいたわ指先やば。なんだこれ。見れば見るほどだな。お母さん以外にこんな手の人見たことないけど…じゃあこの人もやっぱり子供がいるのかな?
「ふふふ、今あなた私のネームプレート見て子供がいる?と思ったでしょ。琢磨の母っていうのは源氏名みたいなもので子供なんていないわよ。もう今年で33歳になるんだけどね。合コン合コンでこの歳ですわ。コンチクショー」
やっぱ全く同じこと一回言ってたよな。別にネームプレート見てじゃなくて指見て思ったんだけどな。もう早く帰ろう。暖房ついてるとこ長くいると気分悪くなるし。
「あなた、仕事はあれね、厨房系で野菜切ってる感じだね」
あれ?これ言わなかったっけ?
「一回言ったよな?みたいな顔してるけど、私は一回も聞いてないわよ。あなたが勝手に記憶を作ってるよそれは。一回聞いてたとしたら私こんな堂々とするかしら?しないと思うわ。でも今、私は堂々としてる。そういうことなの。勝手に記憶を作り上げるのは本当に良くないわよ!」
そうだったっけ…?言った気もするけど、確かにここまで言いきるのは相当な自信ないと無理だしな…
「あんたのその仕事、これからうまくいくといいね」
え、なんだよ、いい人じゃん。こんな人が嘘は言わないな。一瞬でも疑ってしまった自分が恥ずかしい…
「そんなくよくよしてちゃいけないよ、来週彼女の親御さんと食事するんだろ!シャキッとしてしっかり相手の目を見て話すといいんじゃないかねぇ」
すごい、この人にはなんでもお見通しなんだ。
「アレルギーに対応してくれるお店、探すの手伝うわよ」
「すみませんサレンダーです」もう勝ち目がないと悟った男は、とどめを刺される前に自ら降参した。


「どうだった?私の占いコントロールデッキ」
「いやあ初めは勝てると思ったんですけどねえ、やっぱ焦って帰ろうとしたのがダメでしたね」
「私も最初はもう負ける!と思ったんだけどね、たまたまね、運良くシールドトリガー使えてよかったわ」
「えっ?シールドトリガー?どれですか?」
「あの1ターン目に戻すやつよ」
「えー!シールドトリガーって初めて見ました!あんな感じなんですね」
「そう、あれがシールドトリガー。まあまたいつでもおいで、あとマナコストもっと節約しなよ」
「ありがとうございました」
デュエルマスターズは何百年も愛され続け、カードゲームという枠を超えて、説明しにくいけど、なんかこんな形になっていた。子供も大人も、このよくわからないデュエルを本気で楽しんでいた。今を生きていた。カードを使わないのでシールドやマナなんかも存在しないのだが、みんな言いたいときになんとなく言うことにしていた。
「もしもし?今デュエルした占い師がさぁ!シールドトリガー使ってきてさぁ!…」
店を出るなり電話をかけて誰かにシールドトリガーのこと
を語る男の楽しそうな声を聞きながら、占い師は最近ブックオフで立ち読みした『デュエルマスターズはもう言ったもん勝ちの時代!」の効果に驚いていた。