嘘つきじいちゃんのルビックチョップ
「ワシは木彫りの鉄人28号を操縦したことがあるよ。鉄のな。なあ、ばあさん」
また始まったよ。じいちゃんとばあちゃんはいつもいきなり僕のうちにやってくる。一人暮らしを始めて間もない僕を心配してくれているらしかった。
「ばあさん…ばあさん、おい、ばあさん。ばあさん?ちょっと、ばあさん、ねえ。ばあさん、ばあさ…チェーーーーイ!!!!!!」
「あー!!!今やっと一面揃えたとこでしたのに!」
(チラッ)
じいちゃんとばあちゃんが僕の反応を伺ってくる。なんだよ。じいちゃんが適当に嘘をついてからばあちゃんに話しかけてルービックキューブに夢中なばあちゃんはそれを無視してその後じいちゃんがルービックキューブにチョップする。この前に見た時は腹を抱えて笑ったが、全く同じことを披露されて大笑いするほど子供じゃないぜ、あとルービックキューブをチョップするにしては全力すぎるぜ、じいちゃん。かなり顔赤くなってるじゃん。「じいちゃん大丈夫?」
じいちゃん「大丈夫じゃ」
ばあちゃん「角をチョップするからですよ。練習の時あれほど角に気をつけてって言ったじゃないですか」
じいちゃん「いいんだよ。揉んでたらちょっと治ってきたし。それより早く。早くやろうよ」
ばあちゃん「そうですか。あの、いきなりですけどおじいさん最近はまってるものとかありますか?」
じいちゃん「ワシ?ワシは最近走れメロスにはまってて」
ばあちゃん「あれはいい話ですね。『セリヌンティウス、私は途中で悪い夢を見た。私を力いっぱい殴ってくれなければ君と抱擁する資格もない』ってところ」
じいちゃん「ワシが好きなのそこじゃなくて」
ばあちゃん「うん」
じいちゃん「セリヌンティウスの弟子のフィラストラトスが出てくるところあるじゃん」
ばあちゃん「そんなところ太宰もあまり覚えてないと思いますよ」
じいちゃん「久々に見るとあそこがいいんだよ。
ばあさんフィラストラトス再現できる?」
ばあちゃん「私は走れメロスの全シーン記憶してますよ」
じいちゃん「じゃあ、お願い。ワシメロスやるから」
ばあちゃん「『やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。』」
じいちゃん「『それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。ついて来い! フィロストラトス。』」
ばあちゃん「『ああ、あなたは気が狂ったか。』」
じいちゃん「『はい、私は気が狂いまちた。ヴァダーーン!ヴァダーーン!よいしょ♡よいしょ♡
こんにちは、雷神の赤ちゃんです!スーーーー』メロスはバンクーバーオリンピックのときの浅田真央と全く同じ動きをしながらどこかに行ってしまった。セリヌンティウスは、てこの原理で破壊された。」
ばあちゃん「そんなシーンねえわ!
じいちゃんばあちゃん「ありがとうございました。」
(チラッ)
えっ?急になんすか?漫才?は?こっち見んなよ。ばあちゃんなんだよその顔。あ?なんか言ったほうがいいの?えっ?ライブ出るの?下北沢で?じいちゃんとばあちゃんが?へぇー。頑張ってくださいね。